調律せざる者 -始まりの歌ー

「昔むかし、サンドリアにとても聡明なエルヴァーンの魔道士が居ました。
 彼の放つ炎は触れる者全てを灰塵と化し、その雷鳴は大地をも引き裂き
 タルタルの魔道士たちでさえ、恐怖するほどなのでした」

「彼はその力を祖国サンドリアの為に振るい、数多くの強敵を知略と魔法によって退けました。
 その力と策は戦場を己がままに操り勝利に導く事から何時の頃からか彼の事を

               先天的調律者(ジーンローラー)

 と呼ぶようになっていました」

「ある日彼はアルタナによって導かれ、辺境にある寺院にやってきました。
 高齢になった彼には寺院に向かう道も苦行でしたが、アルタナのご加護もあり
 無事にアルタナ像の御前へと辿り着くのでした」

「御前に辿り着いた彼がアルタナに祈りを捧げると、眩い光に包まれて消えてしまったのです。
 そう、彼はアルタナに認められ、その魂をアルタナに寄せる事になったのです」

「これ以降、彼はアルタナの子として称えられるようになり
 何時の頃からか、彼と同じく生まれながらにして魔法の才に秀でた
 子らが現れるようになったのです。
 代々の枢機卿様は彼によって使わされた子として先天的調律者の2つ名を与え
 その子らはサンドリアの国に大きく貢献していったのでした」

「サンドリアの歴史に燦然とその名を残した初代・先天的調律者。
 彼の名はジェレイド・・・」

1つの詩を歌い終えたミスラの詩人は、一息付くとこう付け加えた。

「生まれながらにして強力な魔法を使うことの出来た、サンドのえーゆージェレイドの詩。
 いまや先天的調律者は先の戦争のおかげで異端者扱いされてるこのご時勢に
 この詩を頼むとは結構な通ですねぇ、おねー・・・」

「俺は・・・男だ」

「あら、これは失礼しました」

詩の頼み主であるエルヴァーンに間髪入れずに否定されて
ミスラの詩人は少し驚いた様子だった。
しかし、その見た目は他のエルヴァーンの男性よりも一段と細く
顔立ちもどちらかと言うと女性似だったので間違えてもおかしくはなかった。
男性らしさを感じさせるのは、その身を包むスケイル系の鎧くらいだろうか。

「いや、気にするな。
 ありがとう、これが御代だ。
 ・・・それにしてもアンタみたいな手馴れてそうな冒険者の吟遊詩人が
 なんでまたこんな路銀を稼ぐような事を?」

「元来吟遊詩人は詩を唄い、人を唄い、情景を唄ってきたものです。
 冒険者とは言え、吟遊詩人であるわたしが歌を唄うのはおかしくないと思いますけど?」

そういう事を聞きたかった訳では・・・
そう言いかけたが、こちらに対してにっこりと笑うミスラに口を塞がれた感がして聞けなかった。

「それではひと歌唄い終えたことですし、わたしはおいとまさせて頂きますね」

「ああ、ありがとう」

手馴れた手付きで楽器と道具を仕舞うと、軽く会釈をしてパタパタとその場を去っていった。

・・・昔は英雄と持て囃された今の異端者。
ただそれだけで教会には近づけず、世間からは存在を黙殺される。
由々しき事なのだが冒険者という新しい道ではこの力は歓迎された。
しかしそれも冒険者の間だけの話であり、束の間の平穏でしかないとは知っていた。
だからこそ、この力を断ち切る道を探すと決めたんだ。

俺の名はラトニティ。

異端者ラトニティ・・・。
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# by Future-truth | 2004-07-28 23:58 | 出来心の産物 | Trackback | Comments(3)